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福岡高等裁判所 昭和30年(う)2417号 判決

控訴人 被告人 深沢利夫 外二名

検察官 青山良三

主文

本件各控訴を棄却する。

当審における訴訟費用は被告人深沢利夫の負担とする。

理由

本件各控訴の趣意は、弁護人水崎嘉人(被告人深沢利夫関係)及び弁護人中川宗雄(被告人百武平吉、同久原高次関係)各自提出の控訴趣意書記載のとおりであるから、いずれもこれを引用する。

弁護人水崎嘉人の控訴趣意一及び弁護人中川宗雄の被告人百武平吉関係控訴趣意第二点、第三点について。

地方自治法の各種規定に鑑みれば、議決機関である市町村議会と執行機関である市町村長とは互に対等の地位に立ち、議会は市町村の意思を決定し市町村長はこれを実現することを職分とし、両者がその職能を適正、完全に遂行するため互にその権限を侵すことがないよう組織されていることはまことに所論のとおりである。けれども、それだからといつて議決機関を構成する市町村議会議員が執行機関たる市町村長の諮問機関的地位に立ち、或は執行補助の役割を担当することを以て、直ちに議決機関が執行機関の職務権限を侵すものとし地方自治法の本旨に背馳するものと論断することはできない。それが強制によるものでなく、執行機関において事務執行の適正、円滑を期するため任意に議決機関の構成員の協力を求める趣旨を以てなされ、しかも過度に亘らない限り執行機関の職務権限を侵すものではないと認めるのが相当である。而して原判決挙示の証拠によれば、志免町においては従来町長が比較的大規模の工事を施行するに際しては、その円滑な遂行を期するため関係議員の協力を求めるを例とし、学校建築については町議会の議長、副議長、厚生委員会の委員長、委員等を以て協議会なるものを組織し、入札業者の指名、入札方法の選定、敷札金額の決定、工事監督の方法等につきその意見を徴する慣例であつたことが認められるから、かかる措置はその趣旨、目的、方法等に徴し毫も地方自治法の本旨に悖る違法のものとは謂い難い。けれども、右協議会は何等法令に基き設置されたものでないから、その構成員が法令により公務に従事する職員でないことはまことに所論のとおりである。しかし、元来教育行政の事務に属する小学校の設置は市町村の委任事務として市町村の事務に属し(学校教育法第二条、地方自治法第二条第三項第五号)、その経費は市町村の負担に帰し(地方自治法第二二八条、地方財政法第九条、学校教育法第五条)、市町村議会の議決を経べきものであり(地方自治法第九六条第一項第二号)、又志免町においては小学校の設置は町議会の議決すべきものなるところ(同条第一項第七号、志免町条例)、町議会は地方自治法第九六条第一項第三号により決算報告を認定する権限を有し、又同法第九八条第一項に基き町長の報告を請求して事務の管理、議決の執行及び出納を検査する権限を有し、更に同法第一〇〇条第一項により町の事務に関し調査する権限を有するから、前叙の如き趣旨を以て設けられた協議会において町議会議員であり且つ学校関係事項を分掌する厚生委員会の委員長が、町長の専権に属する学校建築の実施(教育委員会法第五四条の三)に関する諮問に対し敷札金額(落札金額決定の基準となる金額)につき意見を述べることは、議会の有する前記認定権、検査権、調査権行使の事前における準備行為と目すべきものにして、右議会を構成する町議会議員兼厚生委員長の職務行為と密接な関係を有するものと謂うべく、従つて前記協議会における意見開陳に関し報酬として金品を授受すれば、町議会議員兼厚生委員長の職務に関し賄賂を授受したものと断ぜざるを得ない。而して原判決挙示の証拠によれば、被告人百武平吉は志免町議会議員兼厚生委員長として原判示協議会に出席したものであるが、その直前同会において自己が開陳すべき敷札金予想額を被告人深沢利夫に告げて同会に出席し、右予想金額を相当敷札金額であると意見を述べ、町長をして同額に敷札金額を決定せしめて同被告人をして落札せしめた上、これに対する謝礼として同被告人から現金四六万円の供与を受けた事実が認められるから、右被告人等は志免町議会議員兼厚生委員長たる被告人百武平吉の職務に関し賄賂を授受したものと謂うべく、論旨はいずれも理由がない。

弁護人水崎嘉人の控訴趣意二、(一)及び弁護人中川宗雄の被告人久原高次関係控訴趣意第一点中消費貸借であるという論旨について。

しかし、原判決挙示にかゝる被告人深沢利夫の検察官に対する昭和二九年八月一九日附供述調書によれば、同被告人が三回に亘り被告人久原高次に交付した合計金一一万五〇〇〇円は所論の如く消費貸借上の貸金ではなくして無償贈与したものなる事実を優に認め得べく、記録を精査するも原判決に事実誤認の疑は存しない。所論は原審の採用しない証拠に基き原審が適法になした事実認定を論難するもので採用し難い。

弁護人水崎嘉人の控訴趣意二、(二)について。

なるほど、他人の脅迫により畏怖の念を生じ意思の自由を拘束されて不任意に財物を供与するに至つた場合は、たとえそれが公務員の職務に関してなされたものであつても、恐喝の被害者たるにとゞまり贈賄罪は成立しないものと解するのが相当である。けれども、原判決は所論の如く被告人深沢利夫が被告人久原高次から所論の如き方法を以て脅迫され畏怖の念を生じた結果已むく本件金員を同被告人に供与した事実を認めているのではなく、被告人深沢利夫が取締役として主宰する会社請負の小学校建築工事の監督につき便宜寛大な取扱をして貰いたい趣旨を以て、任意に被告人久原高次に本件金員を供与した事実を認定しているのであり、しかも原判決挙示の証拠によれば右認定はまことに相当であるから、原審がこれを贈賄罪に問擬したのは正当であり、記録を精査するも原判決に事実誤認、法律適用の誤は存しない。論旨引用の判例は巡査が職権を濫用して恐喝した事案で事実関係を異にし本件に適切でない。論旨は理由がない。

弁護人中川宗雄の被告人百武平吉関係控訴趣意第一点について。

しかし、原判決挙示の証拠によれば、被告人百武平吉は被告人深沢利夫をして第一小学校建築工事の請負を落札せしめようと企図し、原判示の如く同被告人に対しひそかに自己の敷札金予想額を告知し且つ入札すべき金額を指示した上、敷札金額決定の協議会において右予想額を敷札金額とするよう意見を述べ、町長をしてその額に決定するに至らしめ且つ右指示に従つて入札した同被告人をして工事を落札せしめた事実が認められ、しかも被告人百武平吉の協議会における意見開陳は自己の職務行為とはいうものの、被告人深沢利夫に落札せしめるためにした前記告知並びに指示と不可分的に関連することにより同被告人に対する尽力行為の一環をなすものと認むべく、而して被告人深沢利夫の落札は専ら被告人百武平吉の右告知、指示及び意見開陳に負うものなることが明らかであるから、同被告人は被告人深沢利夫の落札につき絶大なる好意的尽力を与えたものというべく、従つてこれに対する謝礼は即ち職務に関する賄賂であり、論旨は理由がない。

同弁護人の被告人久原高次関係控訴趣意第一点(但し消費貸借であるという論旨を除く)、第二点について。

しかし、市町村の議決機関を構成する市町村議会議員が執行機関たる市町村長の執行の補助機関として執行面に関与することは、その程度、方法宜しきを得れば必ずしも地方自治法の精神に悖る違法のものとは謂われない。このことは同法第九二条第二項の反対解釈として、普通地方公共団体の議会の議員と雖、地方公共団体の非常勤職員の兼務が許されることに徴して疑を容れないところである。従つて町長が自己の専権に属する小学校の建築実施に際し、その工事監督を町議会議員に担当させることはそれが非常勤ならば毫も地方自治法に違反するものとは謂われない。而して志免町工事監督員設置規程は地方自治法第一五条第一項に基き志免町長が制定したものであるから、該規定により選任された工事監督員は法令により公務に従事する職員と謂うべきところ、原判決挙示め証拠によれば、被告人久原高次は志免町議会議員兼厚生委員であつたため昭和二九年一月志免町長の選任により、他の厚生委員七名と共に(他に大工棟梁、設計者も監督員となる)交替にて非常勤として第一小学校建築工事監督の任に当り、同年二月八日前記規程が制定施行された後は同規程に基き右工事の監督員として引続き監督の任に当つて来た事実が認められるから、右規程制定後においては同被告人は法令に依り工事監督の公務に従事した職員と謂わねばならない。而して、同規程制定以前の監督は何等法令に根拠を有するものでないけれども、右工事監督は記録によれば学校建築が設計書、仕様書に合致しているかどうか、使用材料が所定の規格に合しているかどうか等に関するものなるところ、町議会は地方自治法第九八条第二項に基き監査委員に対し町の事務に関する監査を求めその結果の報告を請求する権限を有し、又同法第一〇〇条第一項により町の事務に関し調査を行う権限を有するから、町長が実施する学校建築につき前記の如き工事監督をなすことは町議会の有する前記権限行使の事前における準備行為と目すべきものにして、右議会を構成する町議会議員兼厚生委員の職務行為と密接な関係を有するものと認めるのが相当である。従つて右監督に関し報酬として金品を収受すれば町議会議員兼厚生委員の職務に関し、又前記規程制定後においては併せて公務員たる工事監督員の職務に関し賄賂を収受したものと謂わねばならない。而して原判決挙示の証拠によれば、同被告人は志免町議会議員兼厚生委員にして町長の選任により原判示の通り工事監督の任に当つていたものであるが、被告人深沢利夫から右監督につき便宜寛大な取扱を依頼するためその報酬とする趣旨を以て供与される情を知り乍ら本件金員を貰い受けた事実が認められるから、公務員の職務に関し賄賂を収受したものと謂うべく、又犯意の存在を認め得ること勿論にして原判決に事実誤認、法律解釈の誤りは存しない。論旨は理由がない。

そこで刑事訴訟法第三九六条に則り本件各控訴を棄却すべく、当審における訴訟費用は同法第一八一条第一項本文に従い被告人深沢利夫に負担せしむべきものとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 西岡稔 裁判官 後藤師郎 裁判官 中村荘十郎)

水崎嘉人の控訴趣意(被告人深沢利夫関係)

一、犯罪事実第一関係 原審認定事実は「志免町に於ては以前より比較的規模の大きい工事の施行にあたりその円満な遂行を期する上から町長は分掌事項上関連ある議員の協力を求めるのを例としていた為、本件工事の施行についても町長は町議会議長、町議会厚生委員等を以て協議会を組織し入札業者の指名入札方法敷金額の決定等について意見を求める事になり、昭和二十九年一月七日、志免町役場において右協議会を開催したが同席上における町議会厚生委員長相被告百武平吉のなしたる敷金額に関する意見の具申が公務員たる同人の職務に関するものである」と言うにある。しかしながら一旦議会で起工及びその予算額が議決された工事の具体的な施行は町長の専権に属することは地方自治法第七章以下に規定するところであり町議会議員が之に関与する事は執行機関に対する不当な干渉で権力分立主義を建前とする(地方自治)法の精神に反するものであるから議員のかゝる行為は公務とは認め難い。たとえ小町村に於ては町長の権限が弱く町議会議員の町長職務への関与が事実として行われていても之は旧来の悪習による違法なものであり早急に是正さるべき事は町村政の指導に当つている福岡県地方課員たる証人目野多一の当公廷における供述により明白である。従つて前記の如き自治法に違反したる協議会はたとえ町長の委嘱により構成されたものとしても公的機関と言うを得ずまたその構成員も法令により公務に従事する議員又は委員と言う事はできずたかだか町長が町議会議員としてではなく町の有力者としての相被告百武等に意見を求めたものである。(同人等の行為は私的なものに過ぎない)仍て被告人が相被告人の右意見具申に対する謝礼として現金四十六万円を供与したとしても贈賄罪成立の余地がなく原判決は違法であり破棄を免れない。

二、犯罪事実第二関係 (一)本件は単なる民事上の貸借関係に過ぎない。即ち被告人及び相被告人久原の供述調書によれば相被告人が家を抵当に入れてもよいと申し出たこと相被告人作成受領証によれば昭和二十九年十一月一日相被告人が右金員を返済したことが明らかであり被告人が相被告人に対し金員を供与した事実はないので贈賄罪は成立しない。(二)仮りに金員の貸与だけでも贈賄になるとしても被告人は相被告人の脅迫により畏怖の念を生じ止むなく同人に金員を貸付けたものである。即ち被告人の検察官に対する供述調書によれば相被告人は工事監督に来る者の中でもうるさ型であり被告人に対し「あんた方も工事が取れてよかつた、入札の経緯は自分も知つている、実は昨日も社長に話した通り金に困つているから十万円ばかり貸してくれ、こんな相談をするのはあんた達が工事を請負つているのでつけこむ様だが困つているから家を抵当に入れてもよい」と申し向け落札にからむ被告人の弱味につけこみ右申出に応じなければ工事監督権を濫用して如何なる不利益をも与えんとの気勢を示したので被告人は自由意思を以て之を諾否することが出来ず止むなく之に応じてしまつたものである。斯の如く公務員の脅迫手段による賄賂の要求は違法性がその一方のみに存し之に止むなく応ずるも贈賄罪が成立しない事は判例も認めるところであり(大判昭和二年十二月八日集六巻五一二頁参照)被告人に贈賄の責を問うた原判決は違法であり破棄を免れない。

弁護人中川宗雄の控訴趣意

(被告人百武平吉関係)

第一点本件に於て被告人罪責の基本的な筋は、志免町第一小学校建設工事施行の協議会において、工事入札の敷札をきめるに当り被告人が主張した額に結局落付いたのであるが、この額は被告人が予め原審相被告人深沢利夫に告げていた額に一致するので、この指示に基いて入札した深沢に予定通り工事を落札せしめたという点である。ところでこの工事は、(1) 被告人の予定していたように敷入札の方法でやるかどうかさえ確定していなかつたものであつて、入札当日協議会等に先立つて町長が工事は敷入札ですることを決めこれを発表したものである(第三回公判調書証人清原栄三郎供述)。(2) 敷入札でするにしても被告人の希望する額が敷札となる保障は全くない。しかし通常、予算額より地鎮祭や落成式の費用等を控除した額を敷札とするので概ね各人とも予算額より一割乃至一割二分引位の意見を述べ結局被告人の主張する一割一分四厘引に落付いたにすぎない(第二回公判調書証人権丈勇、第三回証人清原栄三郎、同稲永一郎各供述)。(3) 敷札が予想と一致したとしてもそれの千円引で入札したものが必ず落札するとは限らない。敷札そのものに一致する場合もしばしばあることである(第四回公判調書証人松尾芳辰供述)。すべては未確定な将来の浮動する事実につながる予想であつてそれが偶然にも一致したというのは被告人の予想し主張した額が極めて妥当適正であつたことの証左に外ならない。深沢に「落札せしめる」ために努力したものでは決してない。深沢にすれば被告人に敷札予想をきいたのは落札を期するための情報の集取行為であり、被告人にすれば深沢の依頼があつてもなくても主張したであろう敷札予定いわば協議会に臨む心構えを告げたにすぎないもので判決にいうごとき「洩らし」という犯罪めいた表現を使われる筋のものではない。即ち被告人は深沢が落札するについて何等好意的尽力はしていないのである。

第二点学校建設工事施行についての協議会は何等法令に基かないものであつて公の機関ではない。町長が単に自己の意思を決定するについての資料を得るため便宜上設けたグループにすぎない。従つてその席上何等かの意見をのべたとしても被告人の町議会議員としての職務にいささかも関しないものである。されば被告人が右協議会での言動に関連して金銭を収受したとしても収賄罪を構成することはないといわねばならぬ。

第三点地方自治法によると町議会並びに議会内の常任委員会の職務権限は議決権の適正な遂行を中心として構成されており、町長の権限は法令や議会の議決の執行を中心に構成されている。そして各々議決機関、執行機関として他の権限を侵すことのないよう慎重な規定がなされている。されば議決機関たる町議会議員が執行機関たる町長の諮問機関的地位に立つたり、或いは議決事項の執行面の補助をしたりすることは形の上では町政の円満な遂行のため非難すべきでないかのごとくであるが、実際は両者がなれ合いでいわばグルになつて町政をすることになり地方自治の本旨に背馳するので法はこれを厳に禁じ両者の権限を峻別しているのである。志免町に於ては町長が学校建設等の工事を執行するに当つては入札基準額(敷札)の決定、工事の監督等に町議会常任委員会の議員を参加させその意見を徴していることは判文上明らかであるが、斯くの如く議員が執行面へ立入ることは仮令多年の慣行であつても法の認めない違法なものであるから、それらの過程に於ける議員の行為は議員としての職務行為といえないこと勿論である。ゆえに本件の場合被告人の行為はその主観的認識がかりにどうあろうとも行為自体が職務に関しない以上罪となることはないと信ずる。

(被告人久原高次関係)

第一点被告人は志免町議会議員であつて微粉炭販売業を営んでいる者であるが、炭界不況のため本件当時は文字通り生活にも窮する状況であつた。たまたま被告人の妻の母ツネが、肝臓病を患い重態となつたが、佐賀県小城郡北山村の僻地にいるため療養意のごとくならないところから、被告人の居町の志免鉱業所病院に引取り治療させようと念願し百方金策につとめたが折柄の不況でどうにもならず、一方病人は一日を争う重態という切羽詰つた事情下に、止むを得ず余り親しい間柄ではないが、さき頃志免第一小学校の建設工事を落札し資金の準備もあるであろうと推察して富志建設株式会社の原審相被告人深沢利夫に借金を申入れ数回に亘つて合計金十一万五千円を受取つたというのが事実の実相である。年老いて病苦に悩む母への孝養の一念に出でた行為で、借用に当りては不動産の担保を申出で返済の確実を期しており、又現にその全部を弁済している(第三回公判調書証人安松源吉の供述、検察官に対する被告人の昭和二十九年八月十八日付供述調書等の記載、深沢利夫の受取書)。被告人としては当時母の入院治療費の調達以外のことは念頭になく、自己の町議会議員の職務を私用して借財する等の意思が毛頭なかつたことは、被告人の逮捕以来一貫した供述に徴しても明らかなところである。されば深沢が如何なる意思をもつて被告人の借財に応じたとしても被告人の側に収賄の意思は存在していなかつたといわねばならない。

第二点地方自治体たる町において議決機関たる議員が執行機関たる町長の執行面に立入ることはその反対の場合と同様地方自治法の厳に禁ずるところであつて、これらの混淆を協力とか諮問とかの名を用い形は円満な町政を所期するかのごとくであるが、実際は両者がなれ合いでいわばグルになつて町政を運営することになり、地方自治体腐敗の根源をなすものであるから、法は両者の限界を峻別して相侵すことなく相対峙する権限を定めて適正な運営を図つているわけである。従つて町長が遂行の責務を有する小学校建築工事の監督を町議会議員に依頼するということはそれ自体違法であり、それの根拠として町長が議員を以て監督員とすることの工事監督規則を作つたとしても依然違法は救えない。議員という職務を離れ経験者として被告人個人に工事監督を依頼するのであれば格別そうでなく厚生委員としての被告人に執行事務である工事監督させるのは慣例であろうと規則を作つておろうと違法に変りなく被告人の監督行為は職務行為となり得ない。ゆえにこの監督行為と関連したと称する判示の金銭授受は収賄となることはない。被告人の行為は当然無罪である。

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